学校で模擬国連
さまざまな国の立場から気候変動問題を考える

都立武蔵高等学校・附属中学校
取材:2023年1月27日
黒澤 夏帆(くろさわ かほ)さん
田中 唯人(たなか ゆいと)さん
加茂 佑香(かも ゆうか)さん
模擬国連で優勝した「アメリカ合衆国」チーム。
左から、黒澤 夏帆さん、田中 唯人さん、加茂 佑香さん

中学校で COP21の模擬国連

都立武蔵高等学校附属中学校では、中学2年次から3年次にかけ、国連の会議を模した「模擬国際連合(模擬国連)[注1]」の授業が行われている。生徒が日本をはじめとする様々な国連加盟国の大使となり、世界で起こるさまざまな問題について議論するというものだ。
 2021年度の模擬国連は、パリ協定が採択された2015年のCOP21を再現するかたちで行われ、「アメリカ合衆国」チームが優勝した。その優勝チームのメンバー3人に話を聞いた。
 「模擬国連の会議では各国1回、政策や世界各国への呼びかけをします。短い時間の中に言いたいことを全て詰め込まないといけないので、すごく難しかった」と話すのは加茂佑香さん。
 「2015年当時アメリカは民主党のバラク・オバマ政権で『気候変動行動計画[注2])』をかかげ、気候変動に対して積極的に取り組んでいたので、米国が世界全体でリーダーとなってやっていこうと世界各国に呼びかけました」と話す田中唯人さん、そして班長の黒澤夏帆さんを含めた3名で模擬国連に臨んだ。

模擬国連は3年生全員が学校の視聴覚室に集まって行われる

地球温暖化問題への責任と行動

今回の模擬国連での論点は2つ。1つ目はパリ協定に明記されている温度目標をどう設定するか。2つ目が、地球温暖化問題への責任と行動について先進国と開発途上国に差異をつけるかという問題である。
 そもそも、「気候変動枠組条約」には、これまで多くの温室効果ガスを排出してきた先進国が、途上国よりも多くの責任を負うべきだという「共通だが差異ある責任」という原則がある。先進国は削減義務を負うだけでなく、途上国への資金と技術の援助が求められる。温室効果ガスの排出削減はエネルギー消費の抑制につながるため、途上国には今後の発展の足かせとなってしまう。そのため途上国は「先進国がより多く削減すべきだ」と主張する立場だ。また、産業の発展を遂げた新興国である中国やインドも排出大国だ。先進国と新興国、途上国がそれぞれの国益を守るために対立構図ができてしまう。模擬国連でのこのような構図は、実際の世界情勢と変わりない。
 新興国はブラジル・ロシア・インド・中国・南アフリカの5つで「BRICs」と呼ばれている。アメリカとしては、世界全体のCO2排出量の中で、BRICsがその41%も排出しているのに何も対策しないのはおかしいという考えから、論点を「共通だが差異ある責任」1つに絞り政策案を話した。
 スピーチの最後には、発展途上国に対してアメリカは支援を惜しみなくすることを伝えた。例えば海に沈みかけている国ツバルは、住む場所がどんどん無くなっていくため移民を受け入れて欲しいと要望している。アメリカは支援の内容に、資金援助・技術支援・人的支援に加え、移民の受け入れもすると呼びかけた。

文化祭で展示したアメリカ合衆国チームのまとめ

それぞれの国の事情をすり合わせる

スピーチ(公式発言)が終わると「非公式討議」という話し合いが行なわれる。特に、温度目標を1.5℃にするのか2.0℃にするのかについて議論された。経済も動かしたいアメリカは2.0℃までを推したため、1.5℃までにしたい国と相当話し合ったという。
 新興国と発展途上国で意見は分かれた。「海面上昇によって沈むかもしれないツバルや、ウユニ塩湖の氷が溶けてしまうボリビアなど、気候変動の影響を受ける発展途上国は1.5℃目標に積極的。一方、新興国の中国やロシアは、自分たちがまだまだ発展したいから1.5℃目標にはしたくない。そもそも中国などは2.0℃目標ですらやってくれるか怪しい中、印象的だったのは先進国のドイツなど、環境を重視している国の積極的な取り組みでした。対してアメリカはまだ発展したい気持ちもあるので、先進国同士でも対立することがありました」と田中さん。
 議論の末、2.0℃と1.7℃に関してはボリビアなどの途上国に反対され、1.5℃はアメリカをはじめロシアや日本も反対したため、最終的に1.7℃を努力目標とすることに決まり、パリ協定の1.5℃目標の決議案は採択されない結果に終わった。非公式討議を通じて加茂さんは次のようなことを学んだという。
 「一方が得をすれば、もう一方は損をするような利害関係があるとき、一方を押し通すことはできない。そこをうまく譲歩して、お互いが最低限ここだけは守りたいところをギリギリ納得できるラインに導くことや、お互いを理解しあうことの大切さを学びました。自分が得になるような自己主張ばかりではなく、相手のことも考えて、人間関係を意識することを学びました」
 相手に合わせるだけでなく、自分の主張もおりまぜて交渉するこのような力は、都立武蔵が生徒たちに身に付けさせたい力のひとつだ。

生徒(3人1グループ)が各国の代表となり、国どうしの交渉を行う

調べることと、正しい情報を見極めることの大切さ

「私自身、模擬国連って聞いたことがなくて、実際何をしていいのか分かりませんでした。でも、自国のことも各国の情勢も知っていないと、自分たちの話す方向性を決めることができないので、調べていくうちに理解できるようになりました」と黒澤さん。
 また、田中さんは、過去に起きた遠い外国の情報を調べ、英語を翻訳し、理解した上で、自分たちの考えをすり合わせることが難しかったという。さらに、そうした情報の見極めについて次のように語った。
 「模擬国連のプログラムを通して国際情勢を知ることができました。知る前と後とを比べると、知らないというのは怖いことだと気づきました。インターネットではいろんな情報が公開されているので、情報収集するのには手っ取り早くて良い方法だと思います。ですが、サイトによって言っていることが違っていたりするので、何を信じていいか分からないこともありました。その意味では、本や新聞などの信頼できる情報源は重要で、情報の信憑性を見極めることが大事だと思います。でも、だからと言って、個人発信の情報がダメというわけではなく、少数の考えや個人が感じていることを知ることも大切だと思います」

自国のスピーチだけでなく他国のスピーチの内容を理解することが大事

環境問題への向き合いかた

知っているようで知らない環境問題、行動しようにもなかなか一歩が踏み出せない人も多いのではないか。
 「やっぱり一緒に考えて一緒にできる仲間がいると楽しいです」と、他者との協働を勧める加茂さん。「例えば、政治について詳しく知りたいと思ったときに、学校に政治好きな友だちがいたら自分から話題をふってみると良いと思います」と自分でキッカケづくり・仲間づくりをする大切さを話す。
 また黒澤さんは「難しいことを無理して調べようとしなくても、何かしらどこかで繋がっているので、自分の好きなことから気軽に調べてみることが大事。私は農業に興味があるのですが、気候変動問題を調べてみたら、農業に影響が及んでることが多いと知りました。小麦の生産量が多い地域などに影響が出ていることが分かったので、次は世界全体に視野を広げて考えてみたいと思いました」と自分の興味に関連づけることを教えてくれた。
 2人の話を聞いていた、田中さんが最後に付け加えた。
 「世界って自分たちとかけ離れていると思いがちですが、今回の活動を通して意外と身近に感じることができました。自分の好きなことと環境問題は必ずどこかで繋がっていると思います。それこそ近年は日本でも夏の猛暑などは気候変動問題に関連しているので、普段から自分でも感じることができます。調べるだけでなく、町内会や身近な場所で清掃活動をするなど、自分で行動してみることが大事だと思います。まずはチャレンジすること。何でもいいので、やってみたらいいと思います」

[注1]模擬国際連合(模擬国連)

模擬国連会議においては、参加者が各国を代表する大使に扮し、議論のテーマとなる議題について議論・交渉を行う。大使たちは、各国の主張をまとめ全世界に発表するための決議案を協力して作成し、採択することを目指す。各国大使は、決議案の内容が自国の利益や国際社会の利益に最大限つながるものとするために、交渉を行う。決議案は、会議の最後に大使全員による投票にかけられ、採択または不採択となる。1923年にアメリカのハーバード大学で「模擬国際連盟(Model League of Nations)」が開催されたことから始まり、現在は世界中で開催されている。

[注2]気候変動行動計画

2013年6月25日、米国オバマ大統領は、ジョージタウン大学における演説で米国の温暖化対策行動計画「気候変動行動計画」に関する演説を行った。2020年までに温室効果ガス排出量を2005年に比べ17%程度削減する目標を達成することを固く約束するとともに、その目標達成に向けた追加的対策の実施を指示した。

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